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【Interview】近藤悟史さん

 ものづくりに真摯に向き合う

ーイッセイ ミヤケのデザインにある本質

· Interview

-----プロフィール-----

1984年生まれ。上田安子服飾専門学校を2007年に卒業。卒業後は株式会社イッセイ ミヤケに入社し、プリーツ プリーズ イッセイ ミヤケのスタッフなどとして勤務。2017年には株式会社 三宅デザイン事務所に移籍し、2019年、イッセイ ミヤケのデザイナーに就任。2020年春夏シーズン『A Sense of Joy』でパリコレにおいてデザイナーデビューを果たした。

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服の可能性ー身体と一枚の布から問い直す

___近藤さんがイッセイ ミヤケのデザイナーとして初めて手掛けられたコレクションである『A Sense of Joy』を終えられた際、「身体と一枚の布の関係を改めてきちんととらえ直した」と仰っていました。服とはもとを正せば、陰部を隠したり自然世界の中での安全を確保するモノだったと思いますが、それ以上に身体に対してどのような働きを持つのでしょうか。

 衣服によって、それを着る人や見る人の心を高揚させることができると思っています。さらに、生活をより豊かなものにしたり自己表現を手助けしたりできると思います。そうしたことを一枚の布から考えていきたい。その際に、布と身体の関係性を意識しながら、どうすれば心地よく着ることができるのかを常に考えています。

___身体と一枚の布の関係ということでしたが、「一枚の布」にはどういった意味があるのでしょうか?

 「一枚の布」だけに拘っている訳ではないですが、あまり裁断せず無駄なくつくりたいという思いを大事にしています。一般的に西洋の衣服は生地を細かく裁断して服にしていきますが、裁断を最小限にすることで製造も効率よく行えます。自然なドレープやシルエットといったような、布そのものを活かした様々な表現ができて、より表情が豊かな衣服になると私たちは考えています。だからこそ、一枚の布という考えを基に、できるだけ縫い目のないものづくりを心がけています。

___なるほど、「一枚の布」だからこそ布のありのままの多様な表情が見えやすいということですね。「IKKO TANAKA ISSEY MIYAKE」にて二次元のグラフィックを衣服として表現するなど、従来の捉え方を超えて衣服を捉えられていると感じました。少し抽象的な質問になりますが、近藤さんにとって衣服とは何なのでしょうか。

 まず、衣服を着る人そしてそれを見る人の日々の生活を豊かにできるものだと思います。そして、ものをつくる側だけではなく選ぶ側にとっても、自己表現のツールです。「IKKO TANAKA ISSEY MIYAKE」では、自分が尊敬している田中一光*さんの作品を服を通してたくさんの方に知って欲しい、しっかりと伝えたいという思いから、制作に取り組みました。グラフィックを切らずに作品そのままのサイズ感で、服に落とし込んだ方が一番驚きがあり、デザインもそのためシンプルにしました。

*田中一光:日本のグラフィックデザイナー。日本的な造形や色彩、質感をモダンデザインへと昇華させ世界的な称賛を受けた。80年代初頭には「無印良品」を企画、実現し、その「MUJI」は今や世界的ブランドに成長している。(参照:建築思考プラットフォームPLAT)

 

How to designー自由な表現と誰もが着られる服

___これからはデザインについて質問していきたいと思います。「一枚の布」というイッセイ ミヤケの考え方を基本にして作られた近藤さんの作品からは、シンプルな美しさと、独創性の両方が感じられました。とある記事で「誰もが着ることのできる服」を意識していると仰っていましたが、それと自由な表現の両立はどのように行っていらっしゃいますか。

 仰る通り、体型や人種を問わず、多様性をもった衣服でありたいと思ってものづくりをしています。伸縮性や速乾性などの衣服がもつ機能は、体型だけではなく様々なライフスタイルにもなじみやすいと思います。衣服の色に関しても同じで、多様な肌の色を意識するようにしています。

 自由な表現については、「一枚の布」についての考え方自体をもっと自由にしようとしています。昨年(2021年)10月の『A Voyage in Descent』というコレクションにて、螺旋状に編んだニット「FLUIDITY LOOP」というシリーズを発表しました。四角い「一枚の布」をまとうという考え方から一度離れて、布を最初から螺旋状に編むことで有機的に動いているものをつくり、それを巻きつけることで衣服にしています。それ自体が伸縮性の高いニットなので、様々な方が着られる服になったと思います。従来の一枚の布という概念から新たなフェーズに進んだと感じました。より自由なものができたと思い、今後のものづくりの励みにもなりました。

___「誰もが着ることのできる服」とのことでしたが、服を楽しんだり、自己表現をしたりするには一定の条件が求められる部分もあるように思います。目が悪ければ色を楽しむことが難しいですし、年齢を重ねると肌触りが十分に楽しめなくなる。マーケティングの視点からは、そういう方々はマイノリティになってしまう傾向にあると思うのですが、近藤さんの意見をお伺いしたいです。

 自己表現したり衣服を楽しんだりできないと思っていても、イッセイ ミヤケの服を着ることで、今まで気づいていなかった表現のしかたや楽しみに気づくようになる。そういう服をつくっていきたいと思います。軽くて、伸縮性や着心地も良く、洗濯もしやすいような服はどんな場所でも着ることができて表情も変えられる。さらに、生活の様々な場面だけではなくて様々な人にも着ていただけるのではないかと思っています。だからこそ着る人が自信をもっていただけるような服をつくっていきたいと常々思っています。

___表現の可能性がないと思っていても、そんなことはないと気づかせられるような服をつくりたい、ということですね。少し話が戻ります。「一枚の布」に対する今までの考え方から脱却されたというお話がありましたが、イッセイ ミヤケという大きな枠組みの中において、そのような「自分らしさ」をどのように見出されたのでしょうか?

 イッセイ ミヤケが大切にしてきた丁寧なものづくりをしていく中で、デザイナーとしての個性が表れると思っています。私は今の時代のデザイナーを担当していて、ちょっと先の未来を見据えたデザインをしている訳ですが、イッセイ ミヤケでは設立以来ずっと、ものづくりへの姿勢をぶれずに大切にしています。例えば、糸の研究開発に取り組んだり、生地をオリジナルで作ったり、素材から衣服に至る全てのプロセスに目を通すようにしています。こうして自分たちがつくってきた物語とプロセスを大事にして丁寧なものづくりをしていくことが「イッセイ ミヤケらしさ」なのだと思います。

 より良いものを提供できるようにスタッフと一緒に様々な産地に足を運びますから、もちろん時間はかかります。しかし、そのように一つ一つ丁寧にものづくりしていくことから、「自分らしさ」も生まれていくように思います。

___時間をかけて一つ一つの工程に関わることで、できあがるモノに「自分らしさ」が宿っていくということですね。ところで、「ちょっと先の未来を見据えたデザイン」をしていきたいと仰っていましたが、そのために必要なオリジナリティや想像力を育んでいくにはどうしたらいいのでしょうか。

 すこし難しい質問ですね(笑)。私は、アートや映画など服以外のモノからヒントを得ることが多いです。それと、社会情勢など日々の生活の中で動き回っているものを意識するようにしています。そうしないと、結局つくっているものが自己満足になってしまいます。未来を豊かにするためには、今と未来の社会がどうなっていくのかを常に考えなくてはならない。そう三宅*にもよく言われてきました。いずれにせよ、私の想像力の種は服以外のところにあるのだと思います。

*デザイナー 三宅一生

 

「ぶれない芯」をもつ、そして「やってみる」

___イッセイ ミヤケという大きなブランドの中で独創的なデザインを追求をすることは勇気の必要なことだと思いますし、常に評価や比較がついて回ります。どのように、周囲の目や評価を乗り越えられたのでしょうか?

 どう評価されても心がぶれないことが大事だと思います。コレクションに向けて日々製作していますが、製作がいきなり躍進したりスピードアップしたりすることはないんです。日々の積み重ねでできていくものですから、ものづくりへの姿勢や将来的な目標を大切にして製作するように心がけています。もちろん、アドバイスなどから軌道修正をすることはありますけどね。

___なるほど、何を言われようと大切にしている姿勢や目標がぶれないことが大事なんですね。最後に、自分と他人を比較して才能がないように思ったり、やりたいことが分からなくて何も手に付かなかったりすることが、私たちを含めた若い世代が抱える問題の一つだと思います。何かアドバイスを貰えれば幸いです。

 トライアルアンドエラーはデザインの要です。正解がなさそうに思えることをやってみてヒントが得られたこともあれば、やりたいことをやってみて結局ダメだったこともあります。何が正解かわからなくても、とりあえずやってみることが大切だと思いますし、私はその姿勢を大事にしながらものづくりをするようにしています。

 一方で、何かの軸や根拠をもつことも大事です。コレクション製作では、まずストーリーがあって、その軸を中心に自分なりの根拠を見出しながら製作しています。ストーリーという軸からぶれずに製作することで、デザインに自分なりの根拠ができる。もちろん、着心地など改善すべき点は気にしていますが、デザインについては自分が良いと思うまで考え抜いて妥協せずに製作しているので、他人の目をあまり気にしないようにしています。いずれにせよ、自分の中で何かの軸や根拠があることとそれを基に色々とやってみることが大事だと思います。